[スキャナー]国会論戦 参院選にらみ激突 小沢氏、リベラル色前面に  ◇SCANNER  ◆首相、色なして民主批判   29日の衆院本会議での安倍首相と民主党の小沢代表の論戦は夏の参院選を強く意識したものとなった。「格差の拡大」など内政問題に焦点を絞った小沢氏に対し、首相も民主党の農業政策に反論するなど、対決姿勢を鮮明にした。「政治とカネ」でもどちらが主導権を握るのか、つばぜり合いを演じた。(政治部 小林弘平、川島三恵子)  ■応酬     小沢氏「小泉・安倍政権の6年間で、日本は世界で最も格差のある国になった。いま政治がなすべきことは、憲法改正なのか、国民の生活を立て直し、一新する『生活維新』なのか」  首相「二者択一ではない。いずれの課題にも正面から全力で取り組んでいく。論戦も正面から受けて立つ覚悟だ」  小沢氏が格差問題を強調して政権批判を繰り出せば、首相は色をなして反論した。「選挙の年」の火ぶたを切る党首対決は激しい応酬となった。  小沢氏は、質問のすべてを「格差」問題と教育改革、雇用、年金制度改革、農業政策、中小企業対策など内政課題に充てた。  憲法改正を参院選の争点に掲げる安倍首相に対し、「民主党が国民生活に身近な問題を訴えることで安倍政権との対立軸が明確になる」(党幹部)との判断からだ。  小沢氏の質問には「(安倍政権は)弱者切り捨ての政治」「政治は社会的、政治的に弱い人のために存在する」「労働法制は終身雇用を柱として維持していく」など、リベラル色全開とも言える主張が並んだ。  小沢氏はかつて、集団的自衛権行使は禁じられているとする政府の憲法解釈に異論を唱えるなど、積極的な安保政策を掲げているが、論戦では封印した。参院選での野党共闘を優先するため、野党の政策の違いに焦点が当たらないようにする苦肉の策でもある。  ■敵失     小沢氏らは柳沢厚生労働相や久間防衛相ら閣僚の相次ぐ問題発言も標的とした。  小沢氏は、女性を「産む機械」に例えた柳沢氏を「政治家である以前に人間として許されない」と批判し、首相の見解を求めた。首相は「不適切な発言と考え、厳しく注意を促した」と答弁したが、本会議終了後記者団に「(厚労相は発言を)撤回して謝罪した。政策として結果を出していくことで国民の信頼を勝ち得るよう努力をしてほしい」と述べ、辞任は必要ないとの考えを強調した。  ■異例     代表質問の答弁で首相は民主党の掲げる政策を次々と批判した。特に、農家への直接所得補償制度の導入を柱とする農業政策については「農業の体質強化にはつながらず、現状の構造をそのままにするものだ」と指摘した。  民主党が農業政策や子育て支援策に充てるとしている財源について、「項目を並べているだけで、具体的な内容、方法が不明で、実現の可能性に大きな疑問がある」とこき下ろした。  これは、与党が、参院選の主戦場となる1人区を左右するのは農村票だ、と判断しているためだ。  与党内には「小泉改革で農村部の疲弊が進んでいるだけに、民主党の耳当たりの良い農業政策に反論しなければ、ボディーブローのように効いてくる」(自民党幹部)との危機感がある。  民主党の年金制度改革案は消費税率を据え置いたまま全額を基礎年金に充てるとしている。首相は「国や地方自治体の財源・財政に深刻な影響を与える恐れもある」と反論した。  首相が代表質問の場で、野党の政策を事細かにあげつらうのは極めて異例だ。  首相周辺はその狙いについて「民主党の政策は無責任なばらまきだ、と印象づけることができる」と語る。質問に立った自民党の中川政調会長も「民主党の農業政策は全く非現実的だ。年金改革案も混迷を極めている」などと援護射撃した。  ただ、首相らが民主党の政策批判を展開したことに対し、自民党内には「民主党の政策をわざわざ取り上げたことで、民主党が仕掛けた土俵に乗ってしまった」(党三役経験者)との懸念も出ている。  ◆「事務所費の領収書、私は公表の用意」小沢氏発言…議場騒然   政治とカネの問題では、小沢氏が仕掛けた。  「私を含めて責任ある立場の政治家はすべて、少なくとも事務所費については詳細を公表することにしたらいかがでしょうか」  続けて、小沢氏が「私は、すべての事務所費について領収書や関係書類も含めて、いつでも公表する用意がある」と明言すると、野党席から拍手、与党席からヤジが飛び交い、本会議場は一時騒然となった。  民主党など野党は、昨年末に辞任した佐田玄一郎・前行政改革相や松岡農相の政治資金問題を追及する構えだ。小沢氏自身も秘書宿舎建設費など約4億円を事務所費に計上した適否が議論となっている。小沢氏は法改正ではなく、自主的な公開という「クセ球」で、自らの抱える事務所費問題という「火種」を消すと同時に、与党に揺さぶりをかけたと見られる。  小沢氏は30日、社民党、国民新党との野党党首会談で「政治とカネ」問題での共闘を再確認する方針だ。  一方、安倍首相は政治資金規正法改正などに取り組んでいることを強調した。自民党の中川政調会長も本会議終了後、記者団に「ルールをきちんとすることについて、議論する方がより大事ではないか。個人が自主的にやればいいという問題ではない」と述べ、小沢氏の手法をけん制した。  ◆首相は率直な言葉で   「事務所費の内訳を公表しては」という提案に打って出た小沢代表に対し、すべて慎重な言い回しに終始した安倍首相。29日始まった論戦は、小沢氏の方が綿密な戦略を練ったように感じられた。小沢氏は、首相が提案に乗ってこないと見越して、首相の消極姿勢を国民に印象づけようとしたと見えるからだ。  一方、首相は民主党の政策を歯切れ良く批判した。だが、自らが実現しようとする政策については、各省庁の答弁の範囲内にとどまった。首相は「正面から」という言葉を多用したが、国づくりをどう進めるのか、首相の率直な言葉をぜひ聞きたい。(川島)  〈事務所費問題〉   伊吹文部科学相や小沢民主党代表ら閣僚・与野党幹部の資金管理団体が、政治資金収支報告書に高額の事務所費を計上していた問題。政治資金規正法では、事務所費は内訳の公表義務がなく、領収書添付も不要であるため、不透明だと指摘されている。  ◇29日の衆院代表質問での安倍首相と小沢代表の主な発言=表略    写真=衆院本会議で小沢民主党代表の代表質問を聞く安倍首相(29日午後、国会で)