国会論戦の詳報 29日の衆院代表質問から 民主・小沢一郎氏ら3氏  29日の衆院本会議で行われた代表質問と、安倍首相ら政府側の答弁の主な内容は次の通り。質問者は、民主党の小沢代表、松本政調会長、自民党の中川政調会長。〈本文記事2面〉  ◆国民投票法案 一刻も早い成立を   ◇中川昭一氏 自民   【主張】  憲法改正手続法案(国民投票法案)は一刻も早い成立が望まれる。成立後、衆参両院に設置される憲法審査会では、あるべき憲法の姿について十分な審議が尽くされると考える。  外交の最大の課題は北朝鮮問題だ。「対話と圧力」が基本方針だが、北朝鮮は対話を自ら閉ざしているため、諸外国とともに圧力をかけなくてはいけない。  集団的自衛権やミサイル防衛などを通じ、真の日米同盟関係を確立すべきだ。  首相は、日本版NSC(国家安全保障会議)を作り、外交・安保政策を官邸主導で行う考えだが、首相のリーダーシップにかかっている。  政治と政治資金をめぐる問題は、国民の政治不信を払しょくし、政治の信頼を回復するため、全力を挙げて取り組むべき課題だ。  新たな公務員制度は、第一に能力・実績主義の導入、第二に「天下り」を排除する人事・給与構造の再構築と再就職管理の適正化、第三に有能な人材を有効に活用するための官民の人材交流に集約される。  景気回復の足取りは遅く、家計消費の低迷など、依然としてデフレ脱却に対する懸念材料が存在する。日銀は利上げを見送るという適切な判断をした。  【質問】  ◇現行憲法をどのように改正しようと考えるか。  ◇改めて拉致問題への決意を。  ◇イラク特措法を延長し、人道復興支援活動を継続していく考えは。  ◇教員を評価・支援する方策、教育委員会も含めた教育改革への決意は。  ◇雇用をめぐる問題にどう取り組むのか。  ◆参院選争点 憲法より「生活維新」   ◇小沢一郎氏 民主   【主張】  小泉、安倍政権の6年間で、日本は世界で最も格差のある国になった。勤労者の3分の1は非正規雇用で、サラリーマンの4人に1人は年収200万円以下、4世帯のうち1世帯は預貯金がまったくないという惨状だ。生活保護を受ける人たちは、昨年までの5年間で32%も急増した。  首相は、憲法改正こそ夏の参院選の争点だと強調している。憲法は大事な課題だが、国民生活の現状を直視するならば、国民の生活を立て直し、一新する「生活維新」こそが、いま全力で取り組むべき最重要の政治課題だ。  臨時国会で成立した改正教育基本法では、無責任体制が何も変わっていない。いじめ問題や未履修問題で、国も地方自治体も責任を取らず、教育現場に責任を押しつけただけに終わったことからも明らかだ。  労働法制はあくまでも「終身雇用」を柱として維持すべきだ。終身雇用は、豊かな平等社会を目指してきた日本人の知恵であり、雇用における立派なセーフティーネットの仕組みだ。  小泉、安倍政権の6年間で、国民の負担は消費税換算で3・5%にあたる9兆円も増えた。いま消費税を引き上げると、多くの国民の家計を破綻(はたん)させる。財政的には苦しくても、現行の5%に据え置き、無駄を省くことで財源を見いだすべきだ。消費税5%相当額をすべて基礎年金の財源に充てれば、年金財政は飛躍的に安定する。  国から地方自治体への補助金や交付税をすべて地方に一括交付し、権限もすべて地方に移譲する。「中小企業憲章」を制定し、中小企業が大企業と公正に競争できる環境を整備すべきだ。  私はすべての事務所費について、支出の詳細だけでなく、領収書と関係書類も含め、いつでも公表する用意がある。  2007年の政治決戦に、私のすべてを賭けて戦うと宣言してきた。参院選で野党が国民の過半数の支持を得なければならない。  【質問】  ◇いま政治がすべきことは「憲法改正」か「生活維新」か。  ◇首相の「教育再生」論は、教育問題の本質から外れていないか。  ◇労働法制に対する見解は。  ◇年金制度の改革ビジョンと財源への考えは。  ◇事務所費の詳細を公表することに異論はないか。  ◆安倍政権 米国路線、官僚寄り   ◇松本剛明氏 民主   【主張】  今、格差が拡大している。必要なのは生活維新、格差の是正で、民主党は格差是正緊急措置法の提出を準備している。政府は景気回復というが、「そうは思わない」という人が多くいる。生活実感を受け止め、政策を展開することこそが求められている。  安倍政権を検証すると、米国路線と官僚寄りの方向性が見える。日本の政策は日本の政治が決めるべきだ。  【質問】   ◇米国のイラク開戦の判断は誤りであったと認めないのか。  ◇6か国協議の今後の道筋は。  ◇消費税引き上げに対する考えを。  ◇日本版ホワイトカラー・エグゼンプション制はいずれ導入するのか。  ◇社会保険庁改革法案は「看板の掛け替え」ではないのか。  ◇事務所費のあり方の見直しなど、今国会で政治資金規正法改正をすべきだ。  ◇柳沢厚生労働相の女性を子どもを産む「機械」とした発言をどう考えるか。  ■首相答弁   ◆事務所費公表 党にあり方検討指示   【今国会の最重要課題】  国民の働き方、暮らしの向上、教育の再生、憲法を頂点とする戦後レジーム(体制)の大胆な見直し、いずれの課題にも正面から全力で取り組む。二者択一ではない。論戦を正面から受けて立つ覚悟だ。  【政治とカネ】  佐田玄一郎・前行政改革相は、法にのっとって適切に行わなければならない政治資金収支報告書に不適切な処理があった。辞任を余儀なくされたことは、国民の皆様に責任を感じている。松岡農相については、法にのっとった処理がなされているという報告を受けている。  自民党総裁として、事務所費の公表のあり方などについて、党改革実行本部で検討を進めるよう指示し、すでに議論が行われている。各党会派で同様に論議してもらいたい。  【憲法改正】  自民党は立党50年を機に、新憲法草案を取りまとめた。今後、野党において議論が深められることを強く期待している。  【拉致問題】  現内閣の最重要課題だ。対話と圧力という一貫した考え方のもと、北朝鮮に対し、すべての拉致被害者の安全確保と速やかな帰国を強く求めていく。近く再開される予定の6か国協議で、引き続き取り上げる。   【公務員制度改革】  公務員の労働基本権の問題は、行政改革推進本部の下に設置された専門調査会で、昨年7月から検討している。早期に方向性を整理し、中間的取りまとめをいただきたい。公務員制度は分限制度など多くの課題を抱えており、国民の信頼を再構築するためにも断固として改革を進める必要がある。  【景気回復】  景気回復を持続させる中で、企業の経営環境の改善がさらに進み、賃金が上昇することを期待したい。  ◆消費税、秋以降に本格議論  【消費税】  今年秋以降、本格的な議論を行い、2007年度をめどに社会保障給付や少子化対策に要する費用の見直しなどを踏まえつつ、消費税を含む税体系の抜本的改革を実現させる。  【道路特定財源】  昨年12月に策定した道路特定財源の見直しに関する具体策に基づき、来年の通常国会に法案を提出する。  【社会保険庁改革】  新たに非公務員型の新法人を設置し、業務の民間への外部委託を徹底するなど、解体・6分割を断行する。民主党の歳入庁構想では、業務の効率化は考えにくく、社会保険庁職員を公務員のまま温存することにしかならない。  【少子化対策】  制度、政策、意識改革などあらゆる観点から、効果的な少子化対策を実行するため、子供と家族を応援する重点戦略を打ち立てる。   【イラク支援】  イラクは12年間にわたり、国連安全保障理事会の決議に違反し続けた。そのような認識のもとで、政府として安保理決議に基づいて取られた米国の行動を支持した。久間防衛相も、政府の立場を支持、踏襲することを確認している。  イラク特別措置法の延長も、現地の治安状況、国連及び多国籍軍の活動や構成の変化などを見極めながら、適切に判断する。  【防衛政策】  日米同盟はわが国の安全保障政策の要だ。米国と連携し、弾道ミサイルからわが国を防衛するシステムの早急な整備に努める。在日米軍の再編は、沖縄など地元の切実な声に耳を傾け、地域振興に全力で取り組むことで、着実に進める。  【日中関係】  わが国の平和と独立、国民の生命身体、財産の保護を第一として、戦略的互恵の立場で対応する。  ◆教育改革、「美しい日本」実現の基礎  【教育改革】  教育は「美しい日本」実現の基礎を成す。教育新時代を開いていく。新しい教育基本法をふまえ、関係法律を改正し、教育振興基本計画を策定するとともに、ゆとり教育を見直し、公教育の再生に取り組む。教員免許更新制の導入など、教員の質の確保、信頼される教育行政の構築に取り組む。   【ホワイトカラー・エグゼンプション】  働き方の問題は、働く人たち、国民の理解を得ることが不可欠だ。様々な議論を踏まえたうえで適切に判断したい。  【労働法制の見直し】  すべてのパートタイム労働者を対象に、きめ細かく待遇を改善する。希望する方が正規雇用に移行しやすくする仕組みの整備、パート労働者の均衡処遇の実現、女性・高齢者の就労支援などの整備に取り組む。年長フリーターなどの就職能力開発支援とともに、雇用対策法を改正し、若者の雇用機会の確保に取り組む。  【歳出歳入改革】  歳出歳入一体改革に正面から取り組む。徹底的にぜい肉をそぎ落とし、無駄ゼロを目指す行政改革を進め、筋肉質の政府を目指す。  【国連改革】  できるだけ早期の安保理改革の実現を目指す。  【天下り規制】  国民の厳しい批判があることを真摯(しんし)に受け止め、予算や権限を背景とした押しつけ的な斡旋(あっせん)による再就職を根絶する必要がある。  ◆厚労相発言 厳しく注意促す  【厚生労働相発言】  自らその場で不適切だと述べたと聞いている。私としても不適切な発言と考え、今後誤解を生まないよう、厳しく注意を促した。  【中国残留孤児】  これまで多くのご苦労があったと認識している。来年度予算では、自立支援のためのきめ細やかな取り組みを一層推進する。今後とも支援が行き届いたものになるよう努力する。  ■閣僚の答弁   【防衛相発言】  久間防衛相 私の発言は当時、閣外にいて感じた感想として言ったもので、首相がお答えしたとおり、防衛相として政府の立場を支持している。  【厚労相発言】  柳沢厚労相 女性の方々を傷つける不適切な表現を用い、国民の皆様、特に女性の方々に申し訳ないと存じ、改めて深くおわび申し上げる。安倍内閣で、少子化対策のために全力を挙げて取り組んでいきたい。  ◆わずか11分 小沢氏への首相答弁時間   29日の衆院本会議では、民主党の小沢代表が就任後初めて、代表質問に臨んだ。「格差是正」「政治とカネ」などを30分以上にわたって取り上げ、安倍首相を追及したが、首相の答弁はわずか11分程度だった。  小沢氏に続き、自民党の中川政調会長、民主党の松本政調会長も質問に立ったが、首相は中川氏には約22分、松本氏には約26分にわたって答弁し、小沢氏への素っ気なさが際立った。  ただ、小沢氏は党の政策の説明や提案に重点を置いており、民主党幹部からも「小沢さんは『これをやる、これをやる』と自分たちの話ばかりして問いかけが少なかったから、答弁が短いのも仕方ない」と首相を“弁護”する声が出た。  写真=民主・小沢一郎氏  写真=民主・松本剛明氏   写真=自民・中川政調会長  写真=安倍首相