[政治の現場]参院の力(10)全県区 自力選挙に限界  もう300近くの新年会に顔を出した。  自民党の小林温(ゆたか)参院議員(42)は、選挙区である神奈川県内の地方議員の後援会、団体や企業の新年会などを1日に10~15か所回っている。渋滞を避けるため、車と電車を乗り継ぐ。どの道がいつごろ渋滞するか、自分ほど知っている国会議員はそういない、と思っている。  神奈川選挙区の改選定数は3。小林は2001年参院選の「小泉旋風」を受けて129万票獲得し、2位に大差をつけて初当選した。だが、この夏の参院選は、安倍内閣の支持率が落ちてきていることもあって、楽観視していない。  神奈川では民主党が比較的強い。1998年参院選で、民主党が2議席、共産党が1議席を占めたこともある。  小林は気まぐれな「風」を取り込もうと、懸命に選挙区を回る。だが、支持者は容赦ない。  「菅(総務相・衆院神奈川2区)先生は閣僚なのに会合に来ている。どうして小林は来られないんだ」  表立って反論できない小林は「参院議員の選挙区は衆院議員よりずっと大きいのに、そのことが忘れられている」とぼやくしかない。  選挙区には衆院小選挙区が18区含まれる。いくら会合に顔を出し続けても、会えるのは、膨大な有権者のほんの一部に過ぎない。  小林は痛感する。  「党の力がないと、700万人の有権者にアプローチできない」  島根県選出の青木参院議員会長のように、自力で支持基盤を築いている参院議員は限られる。普通の参院議員は、「票」も、衆院議員や地方議員、支持団体頼みとなっている。  小林も、自前の後援会をそう多く持つ訳ではない。情報技術(IT)会社の経営者から自民党県連の公募に応じ、参院議員に転じた小林は「頭越しに誰かを後援会員にしたり、献金をもらったりすると、あらぬ摩擦を生む」とあって、気を使わざるを得ない。  昨年12月18日、小林は、横浜市内の企業経営者を中心に、ささやかながら自前の後援会をまた一つスタートさせた。  「ざっくばらんにご相談いただければ、お手伝いしたい」  市内の宴会場を借り、自らの国会活動を紹介するプロジェクターを操りつつ、小林は参加した約50人に語りかけた。  都市部で自民党を表立って応援してくれる人はそう多くない。自民党の参院議員が後援会を作ろうとすれば、衆院議員や地方議員の後援会会員とどうしても重なりがちだ。  神奈川と同じ3人区の大阪を選挙区とする自民党の谷川秀善参院議員(72)(当選2回)は、ほぼ毎週末に地元入りし、党の支持団体や大阪府議、市議らの後援会などを回る。  自前の後援会結成も考えたが、府議らに「私らがやりますから、作らんといてほしい」と断られた。  谷川はこう割り切る。  「その方がスムーズにいくなら、それはそれでいい」  参院議員が自力で選挙を戦えないのは、カネの問題も小さくない。ある参院議員秘書はこう説明する。  「選挙区に連絡事務所を設けると、人件費以外に、電話やファクス、パソコンで年100万円かかる。冠婚葬祭に付き合えば、1小選挙区で1000万円以上だ。選挙区に五つ小選挙区があれば、その5倍かかる計算となる。金銭的にもたないから、衆院議員や党の組織に便乗するしかない」  県連の「丸抱え」で選挙に臨むケースもある。  自民党の岸宏一参院議員(66)は山形県金山町長だった98年、県連から参院選山形選挙区(1人区)の候補に指名されて出馬し、初当選した。当時の高橋和雄県知事の呼びかけで、地元経済界が資金面をおぜん立てした。  改選された04年、今度は岸は「選挙に必要な金額はこれぐらいです」と県連に告げられ、自分が支部長を務める選挙区支部から約2000万円を「上納」した。同年の政治資金収支報告によると、岸の選挙区支部の支出総額は約6500万円に達したが、党本部などからのカネや献金で、身銭をさほど切らずに済んだ。  「県連が明朗会計で選挙をやってくれる。山形ほどカネのかからない選挙区はない」  自民党内には参院議員をこうやゆする向きがある。  「参院議員は衆院議員や党組織と共生している。悪く言えば、寄生しないとやっていけない。自力で選挙ができるのならば、衆院選に出ている」 (敬称略) <ydb_html>◇参院選挙区の改選定数 <table border=”1” cellspacing=”0” cellpadding=”1”>   <tr>     <td align=”left” valign=”center”> </td>     <td align=”left” valign=”center”>選挙区数</td>     <td align=”center” valign=”center”>主な都道府県</td>   </tr>   <tr>     <td align=”left” valign=”center”>1人区</td>     <td align=”right” valign=”center”>29</td>     <td align=”left” valign=”center”>青森、富山、三重、滋賀、岡山、徳島、佐賀など</td>   </tr>   <tr>     <td align=”left” valign=”center”>2人区</td>     <td align=”right” valign=”center”>12</td>     <td align=”left” valign=”center”>北海道、宮城、新潟、岐阜、京都、広島、福岡など</td>   </tr>   <tr>     <td align=”left” valign=”center”>3人区</td>     <td align=”right” valign=”center”>5</td>     <td align=”left” valign=”center”>埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪</td>   </tr>   <tr>     <td align=”left” valign=”center”>5人区</td>     <td align=”right” valign=”center”>1</td>     <td align=”left” valign=”center”>東京</td>   </tr> </table> </ydb_html>