「政治」世論調査 知事への信頼度低下 求められる「改革派」=特集  ◆本社「政治」世論調査 事件背景に住民と意識差 住民1位の「天下り」→知事は9位   福島、和歌山、宮崎の3県の前知事が公共事業を巡る談合、贈収賄事件で相次いで逮捕されたことを受け、読売新聞社が実施した「政治」に関する全国世論調査で、知事への信頼度が以前に比べて下がった人が6割以上に上った。業者などのしがらみにとらわれずに、改革を強力に進めていく知事を国民は求めているようだ。〈本文記事2面〉  住んでいる都道府県の政治や行政に関心があるかを聞いたところ、「関心がある」は計72%に上った。「関心がない」は計27%だった。住んでいる都道府県の知事を「信頼している」と答えた人は計58%で、「信頼していない」の計35%を上回った。  だが、今回の知事による談合や贈収賄事件で、全体として知事への信頼度がどうなったかを聞いたところ、「非常に」と「少し」を合わせて、64%の人が信頼度が「下がった」と答えた。「下がった」人を性別で見ると、女性(計68%)が男性(計61%)を上回った。年代別では、20歳代(計71%)が最も多く、60歳代(計67%)が続いた。  今住んでいる都道府県の知事が行政運営を住民に「説明していない」と答えた人は計57%で、「説明している」は計35%だった。年代別に見ると、20歳代では「説明していない」が計70%に達した。  知事が「住民の意見を反映させている」と答えた人は計45%、「反映させていない」は計41%で、評価は二分された。  知事への評価を地域別に見ると、“東高西低”の傾向が見られた。今の知事を「信頼している」は、北海道・東北や中部で7割近くだったのに対し、西日本は計43~57%だった。  中でも近畿は、「信頼している」(計43%)が「信頼していない」(計48%)を下回り、知事への不信が際だった。事件で知事が交代した和歌山県は「信頼していない」が6割近くに上り、大阪府でも半数を超えた。  知事が住民の意見を行政に反映させているか否かでは、「反映させている」が北海道・東北で計62%、関東では計44%だったが、近畿は計31%にとどまった。地域別では近畿だけが、「反映させていない」(計53%)を下回った。  また、行政の運営を住民に説明しているかでも、「説明している」は、近畿は計21%で最も低かった。北海道・東北は計45%、関東は計34%、中部は計37%だった。  古くから、「民」を中心とした商人文化が根付いている近畿では、「官」に対する信頼度がやや薄い傾向があるようだ。      ◇  一連の事件の背景(複数回答)について、今回の世論調査と全国の知事(宮崎を除く)を対象に行ったアンケート(昨年12月下旬~1月中旬)を比べると、大きな違いが見られた。  世論調査のトップは、「自治体の職員が再就職(天下り)などで公共事業に関係の深い業界や業者と癒着している」(60%)。以下、「議会が行政に対するチェック機能を果たしていない」(38%)「公共工事の業者を決める入札制度に問題がある」(35%)など、構造的な問題を指摘する声が多かった。  これに対し知事アンケートでは、世論調査で9位(22%)だった「知事個人の資質や政治姿勢に問題がある」を挙げた人が46人中36人と最も多かった。逆に、世論調査で1位の「職員が業界や業者と癒着」は、わずか3人の知事しか挙げなかった。世論調査で2位の「議会が行政に対するチェック機能を果たしていない」も、アンケートでは6人だけだった。  また、事件の再発防止策として、全国知事会は昨年12月、「一般競争入札の拡大と指名競争入札の原則廃止」「内部通報制度の整備」「職員の再就職(天下り)規制」などをまとめた。  この三つの防止策について、世論調査で効果を聞いたところ、天下り規制については、「有効だ」が計87%、内部通報は計85%、入札改革は計76%に上った。  ◆9割の県民不満/福島、和歌山、宮崎  事件が起きた福島、和歌山、宮崎3県の人たちの知事に対する意識はどうだろうか――。  事件をきっかけに、知事に対する信頼度が以前に比べて下がったかどうかでは、「下がった」の全国平均計64%に対し、3県平均では約9割となり、県民の不満が示された。  知事に必要な資質(複数回答)として「クリーンさ」を挙げた人は全体では38%だったが、福島、宮崎両県では5割以上に上った。ただ、和歌山県では1割程度にとどまった。  事件の背景(複数回答)については、「自治体職員が業界や業者と癒着」「議会がチェック機能を果たしていない」「入札制度に問題がある」の上位3項目の順位は3県でも全国平均と同じだった。ただ、全国平均の4位は「不正行為に対する罰則が弱い」だったが、3県平均では、「多選に問題」が入った。  多選を挙げた人は、木村良樹被告(前知事)が2期目で辞任した和歌山県は1割程度だったが、佐藤栄佐久被告(同)が5期18年務めた福島県では約7割。宮崎県は安藤忠恕被告(同)が1期目で辞任したにもかかわらず、約4割に達した。      ◎  ◆必要な資質「指導力」「行動力」   知事に必要な資質や条件として、特に重要だと思うもの(複数回答)については、「指導力」を挙げた人が61%で最も多く、「行動力」がほぼ同じ60%で続いた。3位は「改革姿勢」(39%)、4位は「クリーンさ」(38%)だった。今までの知事選などで、候補者の強みとされた「経験や経歴」(30%=5位)や「調整能力」(24%=7位)、「国とのパイプ」(23%=8位)を挙げる人は比較的少なかった。  従来のしがらみにとらわれずに新鮮な施策を推し進めることなどで、地方から積極的に発信する「改革派知事」への期待が強いことが示されたといえる。1月21日の宮崎県知事選で、元タレントの東国原英夫氏が中央官僚出身の候補者を破った背景にもこうした意識があったようだ。      ◎  読売新聞社は統一地方選と参院選が12年に1度重なる今年、国民の政治意識を探る世論調査を断続的に実施します。担当は世論調査部・渡辺嘉久、田頭知也、大田健吾です。   ◆有効な防止策、一斉導入を    ◇堀田力(ほった・つとむ)弁護士・元最高検検事   福島、和歌山、宮崎で起きたような談合は、私が検事をしていたころから、どこにでもあった。国から県、市区町村まで、官製談合は構造的に組み込まれてきた。10年ほど前までは、首長になることは、イコール“天の声”を出すことだったとも言える。  検察は、以前は公正取引委員会に摘発を任せていたが、最近力を入れるようになった。一罰百戒という考え方は通用しない。やる以上は全国一斉に取り締まるしかない。  今回の世論調査の結果では、事件が相次いだ背景について、構造的な問題を指摘する世論調査と、知事個人の資質を指摘する知事アンケートで結果が割れたのが興味深い。知事アンケートの結果は、知事の自己保身、県庁擁護以外の何物でもない。  改革派知事は結構いるが、そういう人たちでさえ、「自分のところには道路を造ってくれ」と言う。自分の都道府県の経済のために言わざるを得ない構造が癒着に結びついている。それを知事が断つのは極めて強い意志が要る。  首長は長くやればやるほど業界などとの関係は深まる。従って、調査結果で「2期8年が適当」とする意見が一番多かったのはもっともだと思う。  再発防止策として、一般競争入札の拡大、内部通報制度の確立、天下りの規制はいずれも有効で、すべて一斉に導入すべきだ。ただ、完全な一般競争入札は地元の経済に影響が出る。質の確保策も要る。そこが首長の知恵の出しどころだ。  有権者に対して、選挙で「候補者の政策をよく見なさい」と要求しても難しい。政策を具体的な数値目標や期限で示したマニフェストも、予算の構造の枠を破りにくい限界がある。  「しがらみ」を見るというのが一番確かだ。国とのパイプを強調する人は警戒し、「つらいけど自分たちで頑張る」という人が評価できる。   ■質問と回答(数字は%) ◆あなたは、今住んでいる都道府県の政治や行政に、関心がありますか、ありませんか。 ・大いに関心がある  29.9 ・多少は関心がある  41.8 ・全く関心がない  5.0 ・あまり関心がない  22.4 ・答えない     1.0 ◆今住んでいる都道府県の知事についてお聞きします。(※宮崎県を除く) ◇あなたは、今の知事を、信頼していますか、信頼していませんか。 ・大いに信頼している   13.7 ・多少は信頼している   44.0 ・あまり信頼していない  27.3 ・全く信頼していない    8.0  ・答えない  7.0 ◇あなたは、今の知事は、住民の意見を行政に反映させていると思いますか、そうは思いませんか。 ・大いに反映させている   5.7 ・多少は反映させている  39.1 ・あまり反映させていない 31.8 ・全く反映させていない   9.2  ・答えない 14.2 ◇あなたは、今の知事は、行政の運営について、住民に十分な説明をしていると思いますか、そうは思いませんか。 ・十分に説明している    5.1 ・ある程度説明している  29.7 ・あまり説明していない  41.5 ・全く説明していない   15.5  ・答えない  8.2 ◆福島県、和歌山県、宮崎県で、前の知事が公共工事をめぐる談合や贈収賄事件で相次いで逮捕されました。あなたは、一連の事件をきっかけに、全体として、知事に対する信頼度は、以前に比べて下がりましたか、それとも、変わりませんか。 ・非常に下がった 30.6     ・変わらない 34.3 ・少し下がった  33.8     ・答えない   1.3 ◆こうした事件が起こった背景として、あなたがとくに問題だと思うものがあれば、次の中から、いくつでもあげて下さい。 ・予算や人事など知事の権限が大きい        31.7 ・知事選挙にお金がかかる             23.9 ・議会が行政に対するチェック機能を果たしていない 38.3 ・行政の情報公開が不十分だ            32.5 ・自治体の職員が再就職(天下り)などで公共事業に関係の深い業界や業者と癒着している                                          59.6 ・公共工事の業者を決める入札制度に問題がある   34.6 ・不正行為に対する罰則が弱い           34.2 ・有権者が日ごろから行政に関心を持っていない   22.1 ・同じ知事が何期も続けて選ばれる多選に問題がある 31.0 ・知事個人の資質や政治姿勢に問題がある      22.1 ・その他 0.6 ・とくにない 3.5 ・答えない 2.1 ◆一連の事件を受けて、全国知事会などでは、再発防止に取り組んでいます。次にあげる3つの方法について、それぞれ、再発防止に有効だと思うかどうかをお答え下さい。 (a)あなたは、公共工事の入札について、一般競争入札など、より多くの業者が参加できるようにすることが、再発防止に有効だと思いますか、そうは思いませんか。 (b)知事や幹部職員の不正を、内部通報できる仕組みを作ることについては、どうですか。 (c)自治体の職員の天下りを規制することについては、どうですか。                (a)  (b)  (c) ・有効だ           44.9 58.2 63.8 ・どちらかといえば有効だ   31.0 26.3 22.8 ・どちらかといえば有効でない  9.1  6.6  5.4 ・有効でない          9.2  4.9  4.6 ・答えない           5.8  3.9  3.4 ◆あなたは、今住んでいる都道府県の知事は、こうした不祥事や事件を起こさないように、積極的に取り組んでいると思いますか、そうは思いませんか。(※宮崎県を除く) ・そう思う      24.3 ・そうは思わない   30.2 ・どちらとも言えない 36.4    ・答えない  9.1 ◆あなたは、一般に、知事の在任期間は、何期何年までが適当だと思いますか。次の中から、1つだけあげて下さい。 ・1期4年だけ    18.5  ・5期20年まで  --- ・2期8年まで    47.2  ・その他     0.6 ・3期12年まで   18.2  ・とくにない  11.6 ・4期16年まで    1.1  ・答えない    2.7 ◆あなたは、同じ知事が何期にもわたって選ばれる「多選」を制限する規定を作るべきだと思いますか、そうは思いませんか。 ・そう思う      59.4 ・そうは思わない   18.1 ・どちらとも言えない 21.0    ・答えない  1.5 ◆あなたは、知事に必要な資質や条件として、とくに重要なものは何だと思いますか。次の中から、あれば、いくつでもあげて下さい。 ・経験や経歴  29.5     ・アイデア   24.7 ・国とのパイプ 23.1     ・クリーンさ  37.5 ・改革姿勢   38.7     ・親しみやすさ 18.7 ・指導力    60.6     ・その他     0.6 ・調整能力   24.4     ・とくにない   2.8 ・行動力    59.6     ・答えない    0.8  ……………………………………………………  ◇調査方法  ・調査日=1月20、21日 ・対象者=全国の有権者3000人(250地点、層化2段無作為抽出法) ・実施方法=個別訪問面接聴取法 ・有効回収数=1,780人(回収率59.3%) ・回答者内訳=男49%、女51%▽20歳代10%、30歳代16%、40歳代15%、50歳代22%、60歳代21%、70歳以上16%▽大都市(東京23区と政令指定都市)22%、中核都市(人口30万人以上の市)19%、中都市(人口10万人以上の市)24%、小都市(人口10万人未満の市)23%、町村12%   ◇事件が起こった背景・知事アンケートとの比較=表略     図=住んでいる都道府県の知事の信頼度   図=特に重要な知事の資質や条件(複数回答)   図=知事への信頼度  図=知事への信頼度・福島、和歌山、宮崎の3県  写真=堀田力弁護士